ひみつの王国 評伝 石井桃子 |
石井桃子さんのことは、「幻の朱い実」を読んで以来ますます気になる方でした。
児童文学の翻訳家の彼女が創作の世界にも秀でた才能を示したのです。それも彼女が73歳のときに執筆をはじめ、87歳で完成させるという執念の魂のこもった作品でした。小説に出てくる石井桃子の分身であると思われる主人公、明子は結婚しますが、生涯独身だった石井桃子がよく夫婦の機微をリアルに捉えて書けるのは何故だろうとずっと疑問を抱いていたからです。
それが、この本の中で少し明かされます。
評伝など、自分の死後に書かれることを好まなかった石井桃子ですが、この本の作者である尾崎真理子さんからの1994年から取材、2002年の数日間に及ぶインタビュー(当時石井桃子95歳)に応じ、石井桃子の2008年の101歳での逝去をはさんで、著者は踏み込めなかった領域にも入り友人からの書簡や取材の協力による膨大な資料を起こしこの本を完成させたのです。
この作品が優れたノンフィクション文学に与えられる2015年の新田次郎文学賞をもらったのもうなづけます。
この本は昭和の文学史のよう、キラ星のような作家たちが次々に登場します。石井桃子の周りには後に日本文学を代表する彼女に影響を与えた、また彼女に影響を与えられた、たくさんの作家がいたのです。
太宰治は実は石井桃子に好感を抱いていた、井伏鱒二が彼女にそう言ったら、「私だったら死なせなかったのに」と答えた・・など興味深い話がたくさんあります。
私の好きな指輪物語の翻訳者、瀬田貞二さんとの親密な交流などもたくさんのページが割かれていて嬉しい発見でした。
言うまでもなく、彼女は子どもの本を教訓や道徳を教え込むのではなく、小さな読者たちに、もちろん大人にも大きな喜びを与えるために力を注いだ人でした。
我が家の本棚を見たら、かなり子どもの本を整理したのに、やはり石井桃子の本は残していました。
いつまでも古びず、もう一度めぐり合えることができる本の数々です。
娘婿にWinnie-the-Pooh のことを尋ねたら、好きな本で、小さい頃、親に読んでもらい、自分はTiger というあだ名だったそうです。何故だかわかりますか?
彼も物語のティガァー、小さなトラと同じで、いつもじっとしていなかったからみたい。
くまのプーさんに出てくる「トオリヌケ・キ」の表札があるコブタの家えを訪ねたり、久しぶりに「ゾゾがでた!たすけろい!ぞっぞろしいゾロだい!」と叫んで遊びたくなりました。
ただしディズニーの漫画のプーさんではありません、シェパードさんの挿絵がある岩波少年文庫です。
石井桃子がおしえてくれた「ひみつの王国」です。
↓クリックをしていただけると励みになります。