きのね |
先日亡くなった12代目市川団十郎の母、堀越千代がモデルの宮尾登美子作「きのね」を読んだ。
女中の身で11代目団十郎の一男一女を生み、やがて長男が小学校入学のときにやっと籍に入れてもらい、妻となる千代の、少女時代から亡くなるまでが描かれている。
こんなにまで人を愛して、そのために忍従し、尽くすことができるものだろうか?11代目は癇癪持ちで、家での暴力は凄まじかった。役者の重荷は相当のもので、病気がちだったこともあり、外でいい顔をしなければならない分、家では好き放題だった。しかし外に子どもをつくることはあっても、名門や財力のある相手との結婚があたりまえの梨園にあって千代との愛を貫いて結婚した11代目団十郎も偉かったと言わねばならない。
千代が誰の助けも受けずに一人で長男を出産した場面は壮絶であった。
作者 宮尾登美子は千代夫人がびっくりするほど地味だったので、彼女について一人の女性の昭和史として書きたいと調べつくして書いたらしい。長男のへその緒を切った産婆さんにまで取材している。
女の情念をまとわりつくような湿った文体で、きれいごとにせず書ききっているところで、少々引いてしまうような場面もあったが、ぐいぐい引き込まれて一気に読んだ。
12代目市川団十郎は妹の骨髄移植を受け白血病を克服し、再び舞台に戻り、世間が驚くほどの活躍の後、力尽きて2月3日に亡くなったがこの超人的な意思の力に母千代の姿が重なる。
孫の海老蔵は今まであまり好きではなかったけれど、急に応援したくなった。
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